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事業アイデアの創出からスタートアップ脱皮のその先へ
「エンジェル投資家から出資を受ける」とは?

orosy株式会社 代表取締役 野口 寛士さん

1991 年生まれ。大学在学中米シリコンバレーを訪問し、現地での一ヶ月間に及ぶテント生活の末、日米を含む投資家から1.2 億円の投資を受け学生起業を経験されました。2018 年3 月同社退任、5 月に株式会社スペースエンジンを設立(2022年、orosy株式会社に社名変更)。「すべてのひとに自由なリテールを」をミッションに掲げ、旧来の商慣習や価値観に囚われずに、メーカー・ブランドと実店舗の間に新しい繋がりを作り、世界中で商売が可能な世界を目指してビジネスを展開しています。

事業内容について教えてください。
orosy株式会社は、D2C・オンラインブランドに特化した事業者向けの卸・仕入プラットフォーム「orosy(オロシー)」というサービスを運営しています。サービスの内容は、自社でブランド・商品を持っているサプライヤーと、サプライヤーから商品を仕入れ、店頭販売する店舗運営者が、自由に商品の売買(卸仕入れ)ができるサービスです。
「orosy」はどのような価値を提供するサービスなのですか?
サプライヤーに対しては、オンラインショップで販売している商品を、自社で店舗を構えず、卸営業の人員採用も必要なく、卸の販路を提供、日本中のオフラインの店舗に販売ができるサービスです。また店舗運営者に対しては、自社の店舗に合った商品を「orosy」内で簡単に探すことができ、D2C、オンラインブランドの、とりわけこだわりのあるブランドを、委託販売でリスクを抑えて仕入れをしたり、買取で仕入れる機会を提供します。
小売業界のどのような問題の解決を目指したサービスですか?
最近は様々なwebサービスの登場により、自分のブランドを立ち上げ、商品をオンラインショップで販売するコストと手間が減り、数多くのブランドが誕生しています。ロングテールがより加速しました。その結果、商品を仕入れる側は品揃えの多様化が求められ、多数のブランドを仕入れる必要が出てきました。またブランド側にも課題があり、オンラインからオフラインに進出しようとすると、自社で店舗を構えたり、棚取りのために営業を採用したり、数多くのハードルがあります。百貨店の催事コーナーでポップアップストアを出店する、自社店舗を構えようとすると、途端に莫大な資金が必要になります。そこで、オンラインのように、オフラインでも自由な商いができるようにしよう、商品がオフラインに出ていきやすい環境を提供しよう、というのが僕たちが目指しているところです。
2019年5月末に「SpaceEngine」として提供開始、2020年6月に「orosy」として
リニューアルされていますが、どのように変わりましたか?
「SpaceEngine」は委託販売専用でサプライヤーから店舗への販売依頼によってマッチングが成立するサービスだったのに対し、「orosy」は委託販売に加えて、買取ができるようになったこと、そして店舗運営者からも商品を検索、購入が可能となりました。つまり、オフライン進出のためのサプライヤー向けサービスから、双方向による卸・仕入れのサービスにリニューアルしました。
最初から「orosy」の形態になることを想定し「SpaceEngine」を開発したのですか?
いえ、最初は「店頭に並ぶ機会を持てていない商品を、リアルな店舗に並びやすくしたい」というサプライヤーを主役とした観点で開発、提供開始しました。店舗をスペース、空間を見立てて、委託販売で商品が置ける、という意味を込めて、サービス名も「SpaceEngine」としました。

提供開始してからは、8 ヶ月で4,000 サプライヤー、7 万商品、全国800 店舗のご登録いただいたのですが、そのなかで様々なユーザの方から意見をいただき、「SpaceEngine」は店舗運営社の方にとっては、一部のニーズにしか対応ができていないことに気づきました。そこで店舗運営者のニーズを拾い上げて、作り変えた結果、「orosy」の形態になったという流れですね。
D2C ブランドのみを取り扱う事業者専用卸サイトとしては日本初、とのことですが、海外では
そのようなモデルは既にあるのでしょうか?
はい、アメリカでは「Faire.com」というオンラインブランドの商品を仕入れることができるサービスなどがあります。背景には、2004 年設立の「Shopify」というオンラインショップを簡単に作れるサービスが急成長しており、同じく短期間の間に急激に様々なブランドが誕生しています。日本でも少し後に、「Shopify」の類似サービスやクラウドファンディングが立ち上がっているので、日本でもこれからD2C領域は大きく盛り上がりを見せると考えています。
「orosy」の原型、事業アイデアはどのようにして生まれたのですか?
実は「orosy」の原型が生まれる前からペイフォワードさんとはアイデアを出し、議論を重ねていて、そこから生まれたものが原型となっています。僕が学生のときに起業した1社目の事業を譲渡して、次に何をしようかなと考えていたときにペイフォワードさんと話をする機会があり、そこで「次はどんな世の中が来るだろうか?」という議論を重ねていました。

最初は商業施設の空いているスペースで何かビジネスはできないか、例えば広告を貼る、物販をする、はたまた別のサービスを提供する、といった様々なアイデアを出していくうちに、このビジネスの原型ができていきました。
1社目ではオンライン上で名刺交換ができるサービス、2社目では小売業界という別フィールドで 起業されていますが、最初はどのようにニーズ調査、検証を進めていったのですか?
最初はペイフォワードさんが経営している洋服屋さんに協力してもらい、店長の方に現場の課題やニーズをヒアリングして、サービス企画に組み込んでいきました。それでも実際に仕入れてお店で販売するという実務面での感覚が分からないので、自分たちで店舗を構えたのがニーズ調査には最も役に立ちました。具体的には、大阪と東京に僕たちの店舗を構え、サプライヤーから商品を募り、実際に仕入れて店頭に立って販売する、という一通りの実務をおこないました。これはエンジニアもデザイナーも全員やっています。全員が実体験として学び、改めてサービス開発に組み込んでいったという感じですね。

店頭に立つ前に仮説を洗い出して、店舗で検証を実施、その結果をすぐにサービスに組み込んでいく、という検証と開発を同時並行でおこなったので、期間限定で運営した店舗が閉店すると同時に「SpaceEngine」のiOS アプリをリリースできました。
サービスが立ち上がるまでで、一番苦労した点、難易度が高かった課題は何でしたか?
サプライヤー、店舗運営者側の間で、店頭販売が成立するまでが一番苦労しました。もともとサプライヤーを主役としてサービスをつくったこともあり、僕たちが構えた店舗に2 週間で450 社から販売申込みをいただいたのですが、これを他社の店舗で同じことをするには、店舗のジャンルやブランディングと商品の相性をマッチングさせる必要があり、良いマッチングを提供するまでがすごく大変でした。

ただユーザーの方々とお話をさせていただくなかで、両者がどのようなポイントを重視しているかが理解できるようになってからは広く使っていただけるようになりました。
事業の企画当初、ペイフォワードはどのような関わり方をしていましたか?
立ち上げの時は、仮説だらけなので1つ1つ検証が必要となります。それを積み上げてビジネスモデルを作っていくのですが、どこかで詰まったらすぐにペイフォワードさんに壁打ち相手をお願いしていました。具体的なサービスがない段階ではかなり密にやり取りし、1日6時間ほど壁打ちにお付き合い頂くこともありました。
当時、ペイフォワードに求めていた役割は何でしたか?
代表の谷井さんがスタートアップから上場、EXIT、買い戻しという、日本でも一握りの経営者しか持っていない経験と知見をお持ちで、その視野を持った経営アドバイスが一番有り難かったです。スタートアップだと最初は赤字覚悟でまずはユーザ獲得したけど売上が伸ばせず解散、というケースもたくさんあると思うんですけど、そうならないよう良い塩梅で適宜アドバイスいただいたと思います。

僕自身もユーザーの方々にサービスを届けることを重視し、ビジネスモデルの感覚、マネタイズするという感覚が薄かったので、最初は特にその感覚を掴む部分を教えてもらいました。
当時と今を比較して、ペイフォワードに求めるものに変化はありましたか?
初期は社員がいなかったため、取り組む課題について、検証方法、結果の分析、採用、資金調達計画などあらゆる話題の相談に乗っていただきました。最近はベンチャーキャピタルからも出資を受け、社員も増えたため、そういった細かなことは社員や経営陣で議論し、より中長期的な経営者目線での意見が欲しい時に相談させていただいています。ベンチャーキャピタル含め株主も増え、様々な支援をいただくのですが、事業を起こす起業家から、育てる経営者になる過程、スタートアップから脱皮したときにどうしていくべきか、という中長期的な目線でのご意見、経営者つながりの人のご紹介はとても助かっています。ぜひ引き続き壁打ちの相手をしていただけると有り難いなと思っています。
orosyさんの短期的・中長期的な目標をお聞かせいただけますか?
今はやっとサプライヤーと店舗運営者、双方の顧客が増えて定着しつつある段階です。ここから双方のマッチングにより売上を発生する状態をまずは目指しています。その状態になればより大規模なマーケティングで、全国のみなさまにご利用いただけるサービスにしていきたいです。
中長期的な目標としては、今は国内向けに提供していますが、今海外展開も考えています。既に海外の店舗から問い合わせをいただくことも増えてきて、台湾やインドネシアの日系の方が運営している店舗で「orosy」から仕入れたい、というお話をいただくようになりました。将来的には世界中の商品を日本の店舗が仕入れられるように、また逆に日本の商品を世界中に卸せるようにしていきたいです。
これから日本における小売業界はどのように変化すると思いますか?
新型コロナの影響もあり、オンラインで物を買うというのがかなり普及しつつあります。一方で、オフライン、特に大型店舗はどこも同じようなブランドを取り扱い、各店舗似たようなラインナップになり、オンラインとの差別化が難しくなってきている状況です。

これからはオンラインショップではなかなか出会えないようなニッチで多様な商品がオフラインの店舗に並び、それによって固定客をつかむ店舗が増えてくると思います。そうなると店舗は仕入先がどんどん増えていきます。問屋が扱っているシリーズものの商材、型番商材をまとめて仕入れるのではなく、ニッチなクリエイター、サプライヤーから各々の商材を仕入れる、という変化が起こると思うんですよね。そのときに、各商材をまとめて仕入れることができる場所として「orosy」が重宝されている状態を目指しています。
最後に、これから起業を目指している方にメッセージをお願いします。
少し前は、起業段階で融資を受けることはハードルが高かったのですが、最近は立ち上げの頃から融資を受けることが可能になっています。また、ベンチャーキャピタルの数も増え、シード期、アイデアベースの段階から出資してくれる会社もあります。

そのように多様な選択肢があるなかで、エンジェル投資家から出資を受ける良いところは、資金だけでなく経営のエキスパートから知見が得られるところだと思います。特に起業は先の見えない、仮説だらけの道を進んでいくことになるので、全て自分で学習、経験して進めていくのはもちろんのこと、同時に多くの知見を持った方から学ぶ機会はショートカットにもなると思います。

そのため資金調達は、1つの手段に囚われず柔軟に、資金+αで何を提供してもらえるのか、という点でベンチャーキャピタルやエンジェル投資家に相談するのが良いと思います。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。