Look Forward.
Change Your World.

自分にも、世界は変えられる。

バリアフリーの推進をビジネスに
「自分がいなくても成立する会社経営」を目指して

株式会社ミライロ 代表取締役 垣内俊哉さん

1989年生まれ。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、立命館大学在学中に株式会社ミライロを設立されました。ご自身の経験をもとにビジネス・プランを考案し、国内で数多くの賞を受賞されています。日本ユニバーサルマナー協会の代表理事、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザーにも就任されています。

事業内容について教えてください。
障害やコンプレックスを価値に変えていく、という「バリアバリュー」を企業理念に掲げており、事業内容としてはバリアフリーのコンサルティングから派生して、複数のソリューションを展開しています。従来は社会貢献として扱われてきた領域ですが、障害のある方々だけでなく多様な方々の視点を価値に変換し、ビジネスとして収益を上げていこうというのが私達が取り組んでいることです。
ビジネス、という観点でユニバーサルデザインを取り組むうえで重視していることはありますか?
車椅子で過ごす私が「バリアフリーが大切です」と伝えるのは説得力があります。ただそれでは人権の主張と変わりません。「バリアフリー」の取り組みによって、顧客が増える、利益に繋がる、というビジネスの観点をロジカルにお客様に伝える、ということを重視しています。
提供されているソリューションとしては、具体的にどのようなものでしょうか?
大きく分けると「意識の壁」「環境の壁」「情報の壁」の3つを解消していくためのソリューションを提供しています。
意識については、多様な方々に向き合うための「マインド」と「アクション」が身につく、ユニバーサルマナーの研修などを提供しています。環境については、例えば段差がある場所にスロープをつける、階段しかない場所にエレベーターの設置を提案するといった、バリアフリー化のコンサルティングをおこなっています。情報は、バリアフリーの情報収集ができるアプリケーションを運営したり、聴覚障害者耳向けの手話通訳サービスをおこなったりしています。基本はすべてコンサルティングとして、企業や自治体に提案、という感じですね。
お客様はサービス業の企業が多いのですか?
いえ、サービス業に限らずほとんどの業種業界が対象になります。もちろんサービス業、例えばホテルや結婚式場、飲食店などとお取引することもありますが、お墓のバリアフリー化を進めたこともありますし、障害者雇用を進めたいというニーズもあるので、企業や工場などに対してコンサルティングをおこなうこともあります。
ミライロ設立に至った背景について教えてください。
私は生まれつき骨が折れやすい病気のため、幼少期から車椅子に乗って過ごしました。「自分の足で歩きたい」という幼少期からの夢が叶わないと知った時、私は絶望しました。それから多くの人の支えを受け「歩けなくてもできること」を探すなかで、「歩けないからできること」を見つけたことをきっかけに、会社としてサービスを提供するに至ったという背景があります。詳細については、TEDxKyotoのプレゼンや著書『バリアバリュー 障害を価値に変える』に記載の通りです。
会社を経営するうえで大事にしている、意識していることはありますか?
私の病気は先祖代々脈々と受け継がれてきたものです。先祖の時代ではこの病気によって働くことが出来なかったけど、私は幸いとして働くことが出来ています。それは過去の方々が作り上げてきた社会によって成立しているものです。そして後世の社会を作っていくのはこの私達です。私自身、いつ前線を離れてもおかしくない体であるということもあり、私がいなくても成立する、後世にバトンタッチができるような形での経営を意識しています。
事業における今後の目標は何ですか?
既存の事業については非常に多くの依頼をいただく機会が増えてきたので、今後はまだまだ取り組めていない領域を進めていきたいと考えています。特に新型コロナの影響でビジネスの形も働き方も変わっていくと思うので、障害者雇用の促進に注力していきたいです。現在の障害者は約964万人、そのうち就労している方は82.1万人、つまり就労者は1割未満です。2019年に改正された障害者雇用促進法では民間企業における障害者の法定雇用率は2.2%という枠組みがありつつも、国ともコミュニケーションを取りながらバリアフリーや障害者雇用の推進をしていかなければならないと考えています。またゆくゆくは海外にも広げていきたいですが、私自身の健康面を考えてもずっと長くやっていけるわけではないので、私の視点だけでなく様々な視点で事業を進めていく必要があるかと思いますね。
垣内さん自身の目標はありますか?
場所にとらわれない働き方というのは、私自身としても会社としてもやってきたつもりではありますが、世の中の働き方が変わりつつあるということもあり、障害者雇用という観点でミライロという会社がお手本となるような形でやっていきたいなと思いますね。当然、儲からなければ事例にもお手本にもならないので、ミライロがしっかりと障害者雇用と柔軟性の高い働き方を採用しつつも、収益を上げていく、そのような会社経営を目標としています。
「日本における障害者に向けた取り組み」についての見解をお聞かせください。
日本は、室町時代には「当道座」という視覚障害者が定職につけるための制度が存在、江戸時代では障害者が将軍を務めたことがあるというように、もともと社会的弱者に機会を与え続けてきた国です。「富国強兵」を掲げていた明治時代から戦後までは一時的に逆行しましたが、1960年以降は障害者に関する法整備も進みました。日本は戦時中を除けば、障害者や社会的弱者のための配慮は他国と比較してずっと進んでいます。そのことをもっと世の中に理解してもらい、世界にアピールしていかなければいけないと考えています。
世界にアピールすべき日本の取り組みについて、例えばどのような内容が挙げられますか?
例えば点字ブロックは岡山県で初めて開発されて、1970年、大阪の我孫子町駅に初めて設置されました。そこから全国に広がり、今や世界75カ国で設置されています。駅にエレベーターをつける、というのも1980年大阪の喜連瓜破駅が発祥で、そこから全国、全世界へと広がっています。駅のエレベーター設置率などを比較しても、バリアフリーの観点ではかなりの先進国と言えます。ただ一方で、障害者雇用についてはまだまだ進んでいない領域でもあるので、出来ていないこともあるという現実を受け止めつつも、出来ていることはしっかりとアピールしていくことが必要だと感じますね。近年は「SDGs」や「ESG」関連で注目されているため、ますます需要が高まっていく領域だと捉えています。
ペイフォワードとの最初の出会いについてお聞かせいただけますか?
最初にペイフォワードの代表である谷井さんと出会ったのは、2010年の創業1年目の頃ですね。その時谷井さんが経営していた会社に私が問い合わせた時、谷井さん自らメールをいただいたのがきっかけでした。それで1度お話した後、私の話を周囲の経営者に知ってもらいたいと言っていただき、講演会を企画していただいたことがあります。
そのときに受けた印象はどのようなものでしたか?
当時まだ大学3年生だったのですが、多くの経営者は私を学生として接するなか、谷井さんの場合はずっと経営者として向き合う姿勢を保っていただいたのを感じました。手伝ってあげる、という姿勢でなくあなたの話を周囲に聞かせたいから機会をくれないか、というようなお声掛けをいただいたのが本当にありがたかったですし、だからこそ私もプロ意識を持ち続けて、甘えることなく向き合おうと感じたのを記憶しています。そこから定期的にお食事などをさせていただくなかで、メンターという役割で関係性を続けていただきたいという目的から、株主になっていただくことをご相談したという背景があります。
メンターとして、今後はどのようなことを期待しますか?
今まで、従業員、マネジメント、評価、事業戦略など、経営に関わる大体全てのことはご相談しました。10年前に起業し、知らないことがたくさんある中で、今まで道を踏み外すことなくやっていけたのは、谷井さんに意見をいただき、伴走いただいたことが大きかったと思うので、引き続き経営の先輩として幅広くご意見をいただけるとありがたいです。
最後に、これから起業を目指す方や事業を生み出そうとしている方に向けて、一言メッセージをお願いします。
「失敗は買ってでもしろ」という話はよくありますが、しなくていい失敗はしないほうが良いに決まっているんですね。その「しなくていい失敗」をしないためには常に「最高の準備をする」ことこそが大事だと考えています。
起業当初は、例えば書類を送る時に送付状がいるという知識もありませんでした。そんな中で私が10年間経営を続けていけたのは、ビビリだったからこそ、分からないことを沢山勉強して、常に準備を続けてきたからだと思っています。どんな些細なことでも小さなことでも徹底的に準備をすれば失敗しない。スピーディーに様々なことが動いている社会のなかでも、1つ1つの行動、動作を丁寧にするというのが結果的に、最短ルートになると考えています。
だからどんなことにおいても最善でもなく最良でもなく、「最高の準備」をして欲しいと思います。

※本文では「障害者」と表記しています。「障がい者」と表記すると、視覚障害のある方が利用するスクリーン・リーダーでは「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまう場合があるためです。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。